映画『ドニー・ダーコ』解説

このページではタイムトラベルを扱ったカルト映画『ドニー・ダーコ』について解説してあります。この映画の筋は極めて複雑かつ難解で、様々な解釈がなされていますが、このページでは主としてリチャード・ケリー監督の解釈を元に解説しました。

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映画のあらまし

ネタバレ注意!以下の文章ではネタバレが公開されていますので、映画を見るまでは下記の文章を読まないでください。

時はブッシュ対デュカキスの大統領選がたけなわだった1988年。ヴァージニア州の町ミドルセックスで家族と一緒に住む17歳のドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)は知的ながら情動障害のあるティーンエージャーで、精神科医(キャサリン・ロス)に通い心理カウンセリングを受けている。

10月2日の深夜過ぎ、ドニーは頭の中で聞こえる声に従い、自分の寝室から抜け出し、夢遊病者のように近くのゴルフコースに向かう。声の主はフランク……不気味なウサギだった。フランクはドニーに「今から28日6時間42分12秒後に世界が終わる」と予言する。そしてドニーは気を失う。ゴルフ場で一夜を過ごしたドニーが帰宅すると、自宅は惨状を呈していた。飛行機のエンジンがダーコ家に墜落、ドニーの寝室を直撃したのだ。もしドニーが前夜に寝室から出ていなかったら、即死していたはずである。

飛行機のエンジンは未来から来たものだった。10月30日ロスアンジェルス発、ヴァージニア行きの飛行機のエンジンが10月2日に時空移動して、ダーコ家に落ちてきたのである。このフライトにはドニーの母親(メリー・マクドネル)と妹が乗り込んでいた。妹はロスで開催された高校のダンス選手権大会に参加した後、帰宅の途にあった。母親はダンス団の付き添いであった。

10月2日の深夜過ぎ、ドニーがウサギに呼ばれて自宅を離れ、ゴルフ場に向かった時点で、主宇宙(プライマリー・ユニバース)から接宇宙(タンジェント・ユニバース)が派生し、主宇宙は静止状態になった。いわば木の幹(主宇宙)から枝(接宇宙)が伸びたようなものである。ここでの問題は、接宇宙が極めて不安定で、一ヶ月足らずで壊れる運命にあることだ。接宇宙が崩壊したらブラックホールが発生し、主宇宙を道ずれにして、すべてが消滅してしまう。ウサギが言った「世界が終わる」というのはこのことだったのである。

この危機的状況を起こしたのは時間をコントロールする技術を会得した未来人であった。彼らは誤って飛行機のエンジンを未来から過去に移動してしまったのである。そこで未来人たちは世界の終わりを阻止すべく作業に着手する。世界を救うためには、接宇宙に落ちたエンジンを主宇宙に戻さなければいけない。そうしたら接宇宙は閉じられ、主宇宙は再び正常に動き出す。未来人たちはミドルセックスの町に住む人々を潜在意識のレベルで操り、エンジンを「枝」から「幹」に移そうとしたのである。ここで中心的な役割を与えられたのがドニー・ダーコであった。未来人たちはドニーに時空を操るパワーを与え、エンジンを主宇宙に戻させようとしたのである。ドニーのように未来人からパワーを授けられる者は「生ける受信者」と呼ばれる。なぜドニーが「生ける受信者」になったかというと、ドニーの寝室にエンジンが落下したからである。いわばドニーは宇宙の中心的な存在だったのである。

10月30日、ロスアンジェルスからヴァージニアに向かって飛行機が飛んでいた。ドニーはこの飛行機からエンジンを切り離し、ワームホールを作って、エンジンを10月30日から2日に移動させた。つまり、枝(接宇宙)から幹(主宇宙)にエンジンを戻したのである。こうして接宇宙が閉じられ、時間は10月2日にリセットされた。前回エンジンが落ちてきたとき、ドニーはゴルフ場で眠っていたが、今回彼は自分の寝室にいた。そこにエンジンが落下し、ドニーは息絶えた。つまり彼は自分を犠牲にして世界を救ったのである。

不気味なウサギは何者?

不気味なウサギの衣装を着ていたのはドニーの姉のボーイフレンド、フランクである。10月29日の夜にドニーの自宅でハロウィンのパーティーが催された際、フランクはウサギの衣装を着て現れた。その後、フランクは車を暴走させ、ドニーのガールフレンドであるグレッチェンをひき殺してしまう。怒りに燃えたドニーはフランクの右目を銃で撃ち、殺害する。未来人たちはこのことを知っていたので、フランクを自分たちのメッセンジャーとして使うことにした。『タイムトラベルの哲学(映画に登場する白髪の老婆ロベルタ・スパローが書いたタイムトラベルの解説書)』によると、接宇宙で死んだ者は「操られる死者」として「生ける受信者」にコンタクトできるという。未来人たちは世界を救うため、フランクを使ってドニーを導いたのである。

なぜドニーは学校の水道管を壊し、洪水を起こしたか?

グレッチェンと知り合いになるためである。未来人に操られたドニーは深夜の学校に向かい、水道管を斧で叩き割り、洪水を起こす。翌朝、洪水のせいで学校が休みになったので、登校途中のドニーは帰宅の途につく。その途上でグレッチェンが二人の男子学生からいじめられていたので、ドニーが割って入り、彼女を救い出す。それをきっかけにして二人のつきあいが始まった。

10月29日の夜、グレッチェンはフランクの運転する暴走車によってひき殺される。絶望したドニーは彼女の命を救うために、飛行機のエンジンを主宇宙に戻し、時間をリセットすることを決意する。未来人たちは「愛する人の死」といった劇的な状況が起こらない限り、ドニーに行動を起こさせることはできないと判断し、このような筋書きを仕組んだのである。

 洪水には別の意味もある。『タイムトラベルの哲学』によると、水はタイムトラベルにおいて重要な要素だという。接宇宙から主宇宙に通じるポータルを建設するためには、水をコントロールするパワーが必要だというのである。つまり、学校で洪水を起こすことは、ドニーにとって水をコントロールするための訓練だったのである。

なぜ校庭の犬の銅像の頭に斧がささっていたか?

『タイムトラベルの哲学』によると、水と金属はタイムトラベルで欠かすことのできない要素だという。したがって、犬の銅像に斧を叩き込むことは、ドニーにとって金属をコントロールするための訓練であった。なお、銅像は極めて硬いので、斧を振るったくらいでは叩きこむことはできない。にもかかわらず斧がささったということは、未来人がドニーに超人的な力を授けたことを意味している。10月30日にドニーは飛行機のエンジン(金属)をワームホールに送り込むことで世界を救うことに成功した。

なぜドニーはジム・カニンガムの家に放火したのか?

自己啓発運動の指導者ジム・カニンガム(パトリック・スウェイジー)は表向きでは高潔な人物を装いながら、その実は自宅の地下室でひそかに小児ポルノに手を出していた。彼の家に放火することで、消防士が小児ポルノの現場を発見し、カニンガムは警察に逮捕される。カニンガムを崇拝する教師キティ・ファーマーはこの逮捕を不服とし、「カニンガムは無実だ」キャンペーンを始める。キティ・ファーマーはロスで開かれる高校のダンス選手権大会に生徒を引率することになっていたが、キャンペーンのせいで引率できなくなった。そこでドニーの母親にそのお鉢が回された。

10月30日、ダンス大会が終わり、母親と妹は帰宅するためロス発ヴァージニア行きの飛行機に乗り込む。この飛行機は墜落する運命にあったので、ドニーは二人に害が及ぶ前に飛行機からエンジンを切り離し、ワームホールを作って、エンジンを主宇宙に戻し、時間をリセットすることを決意した。グレッチェンの死と同じく、母親と妹の存在も、ドニーに決定的な行動を起こさせるための未来人の計略だったのだ。

なぜドニーの母親は終わりの場面で息子の死を悲しんでいるように見えなかったのか?

母親は接宇宙の「二日酔い」の状態にあったと思われる。接宇宙が閉じられ、時間がリセットされ、主宇宙が動き始めても、関わりになった人々の心には「未来の記憶」がデジャヴのように残っていた。夢か現かハッキリしないその記憶に母親は混乱していたのだろう。その他の人々も同じ症状を体験していた。10月3日の朝に目覚めたフランクは、ドニーに右目を撃たれた記憶ゆえに、右目を触っていた。ジム・カニンガムは小児ポルノの秘密が暴かれ、逮捕されたことを思い出し、さめざめと泣いた。そしてグレッチェンは事故の後始末で忙しいドニーの自宅の前に自転車でやってくる。この時点で彼女はドニーに会っていないが、「未来の記憶」がかすかに残っていたので、ドニーの母親に憐れみと親しみを感じ、彼女を慰めるためにそっと手を振った。母親もまた見ず知らずのグレッチェンに親しみを覚え、手を振り返したのだった。

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