タイムトラベルは可能?

このページでは、イギリスの科学者、スティーブ・プレストンさんによるタイムトラベルの解説をお届けします。下記の文章はスティーブさんのサイト『サイファイ・サイエンス』で公開されているエッセーを、許可をいただいた上で翻訳したものです。
時間って何だろう?
というわけで、どこから始めようか? 時間の話から始めることにしよう。時間って何だろう? 辞書によると、時間とは「空間と共に物体界を成り立たせる基礎形式」とある。または「二つの連続したできごとの間の隔たり」とある。腕時計を見ると秒針がゆっくりと秒を刻んでいるよね。僕たちは「自分自身」というタイムマシンの中にいるわけだ。心臓が血液を送り出し、僕たちは呼吸をしている。つまり、人は時間の中に存在するわけだ(少なくとも自分自身の個人的なタイムマシンが「故障」するまでは)。
「一日につき一日進む」のとは違う速度で時間の中を移動する可能性についてはどうだろう? 常識的に考えればそんなことはナンセンスであり、タイムトラベルは不可能ということになるよね。しかしながら、常識は必ずしもよい指標とはいえない。数百年前の常識によれば、人間が空を飛ぶことは絶対に不可能だった。今や人は世界中を飛び回っている。
タイム・パラドックス
タイムトラベルに対する反論で最も一般的なのはいわゆるパラドックスだ。例えば、タイムトラベルで過去に行って、生まれたばかりの自分のおばあさんを殺したらどうなるだろう? 理論的には、タイムトラベラーは生まれなかったことになる。だから過去に戻る旅も起こらなかったことになる。ということは、おばあさんは殺されないのだから、タイムトラベラーは生まれ、過去に旅して、おばあさんを殺し……という具合に延々と続いていく。これがパラドックスだ。
このパラドックスを解決する方法は二つある。一つは過去が完全に定義されているというものだ。つまり、一度起こったことは必ず起こらなければならないということ。したがって歴史の流れは乱されない。言い換えれば、タイムトラベラーが自分のおばあさんを殺そうとしても、ことごとく邪魔が入り、目的は絶対に達成できないわけだ。かくして時間(というか、もっと正確にはできごと)は元の状態を保つわけだね。
二番目の可能性はもっと複雑で、宇宙の亜原子レベルを管理する量子公式がからんでくる。簡単に言うと、タイムトラベラーがおばあさんを殺した時点で、即座に新しい量子宇宙が作られるというものだ。量子宇宙とは本質的にパラレル・ユニバース(並行宇宙)のことだ。この宇宙でおばあさんは存在しないのだから、タイムトラベラーも決して生まれない。だが元の宇宙は依然として残っている。スティーブン・ホーキングは、このパラレル・ワールドの主題に変化を加えることで、僕たちが住んでいる宇宙の起源を説明できると信じている。
タイム・トラベルは可能か?
パラドックスの説明ができたところで、どうやって時間を旅したものだろう? タイムトラベルの秘訣は光速に近いスピードで移動することにある。光速に限りなく近い速度で旅することに問題があるとしたら、それはC(光の速度)に近づけば近づくほど、時間がのろくなっていき、最終的にC時間が止まるということだ。時間が止まったら、どのようにしてそれよりも速く進んだらいいのだろう? この答えを出すためには「量子トンネル現象」という複雑な過程を経なければならない。いったん速度がC時間を超えたら、時間は後方へ移動するようになり、旅行者は時間的に負の領域に入るわけだ。