死神の谷

原題:Der mude Tod
製作国: ドイツ
監督:フリッツ・ラング
脚本:フリッツ・ラング、テア・フォン・ハルボウ(ラングの妻)
公開日(ドイツ):1921年10月6日
公開日(日本):1923年3月30日
上映時間: 105分
主演者
リル・ダゴファー ... 若い女性
ワルター・ヤンセン ... 若い男
ベルンハルト・ゲッケ ... 死神

結婚を間近に控え幸せいっぱいのカップルが旅行中に小さな村の宿屋で休みをとった時、男は死神にさらわれ、高い壁によって四方を囲まれた場所に隔離される。その壁には扉も窓もないので、中に入る術(すべ)はなかった。フィアンセを探し求める女は自ら毒を飲んで壁の内側に入り、死神に迎えられる。

女はフィアンセを返すよう死神に嘆願する。女を哀れんだ死神はある挑戦を申し出る。三つある「死のロウソク」のうち、一つでも火を消さなかったら、フィアンセを返してくれるというのだ。それらのロウソクはどれも寿命が尽きかけている男の命を象徴していた。

かくして二人は、古代ペルシア、17世紀のベネチア、皇帝に支配されていたころの中国に飛ばされ、そこで冒険を繰り広げる。どの国でも、愛し合う男女が悲劇的な状況によって引き裂かれ、男は死を迎える運命にあった。果して女は運命にさからい、一度でも男の命を救うことができるか?

SF映画の名作『メトロポリス』のフリッツ・ラングが監督した白黒の無声映画で、ラングの最初のヒット作と言われています。

物語が4国にまたがるので、アンソロジー映画のような趣があり、飽きさせません。二人の主演者はそれぞれ一人四役を演じます。特殊効果がふんだんに使われており、視覚的におもしろい作品になっています。アクションシーンも当時としては中々のもの。

劇中劇の舞台であるバグダッド、ベネチア、中国はどれも神秘的なイメージのある都・国ですが、演出もそれに合わせて雰囲気たっぷり。バグダッドの話の主たる舞台はカリフの宮殿ですが、有名なイスラム神秘主義の教団の一つ・メヴレヴィー教団(旋舞教団)がストーリーに取り入れられており、目を奪われます。ベネチアの話では仮面やゴンドラがムードを盛り上げます。

三話の中で最も凝っているのは中国の話です。登場人物の一人が魔法使いなので、空飛ぶ絨毯が出てきたり、ミニチュアの軍隊が現れたり、本物のゾウが登場したり、人間が仏像やトラに変身したりと、『聊斎志異』のような奇想天外な物語が展開します。西洋人が東洋人を演じているところも面白い。主人公の男は弁髪っぽい髪型になっています。セットや衣装は本物に近いとは言い難いものの、20世紀初頭の西洋人が作ったにしては、それなりによくできていると思います。

・本作はアルフレッド・ヒッチコック監督のお気に入り映画です。

・シュールリアリズム主義の監督であるルイス・ブニュエルは、この作品を見て映画に興味を持つようになりました。

・サイレント冒険映画のヒーローとして有名なアメリカの俳優・ダグラス・フェアバンクスは5000ドルで本作のアメリカでの公開権を獲得しました。フェアバンクスは本作の特殊効果がとても気に入ったので、彼の次回作『バグダッドの盗賊』で、ペルシアの部分の特殊効果を流用するために公開権を手に入れたのです。その結果、本作のアメリカでの公開が遅れることになりました。

・本作が1923年に日本で公開された時の題名は『死滅の谷』だったのですが、DVD化にあたり、『死神の谷』に改題されました。

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